無料ブログはココログ

« 「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 15 | トップページ | 「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 17 »

2019年3月13日 (水)

「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 16

台湾の歴史を知ろう・台湾歴史博物館
                   ―歴史は一つではない

チーム〈近隣アジアを知る〉
               垂 水 英 司

16  古都台南に国立台湾歴史博物館があ る。町の中心部からかなり離れているた め、これまで行きそびれていたが、先日機 会に恵まれて訪問した。博物館全体は 10 ヘクタールの歴史公園で、緑地や池が広 がる敷地の真ん中に展示教育棟がある。 展示教育棟に入ると、先史時代から現代にいたるまでの台湾の歴史が、映像、模型、オブジェ、文物などを用いて常設展示 されている。「この土地、この民-台湾の物語」というテーマで、なかなか力の入っ た展示だ。では、先史時代からたどり始め ることにしよう。

「先史時代の住民」、「異文化の出会い」、「中国から台湾への移民」、「地域社会と多元的な 文化」と歩を進めると、やがて日本が植民地支配した時代に差し掛かる。そこには先ず 2メ ートル四方ぐらいの色褪せた布が展示されている。これは「台湾民主国」の旗だ。1895 年 4 月 17 日下関条約により台湾が日本に割譲されることが伝わると、激怒した台湾の士紳(進 士など上層階級)や民衆は、5 月 23 日「台湾民主国」の成立を宣言した。ただ日本軍が上 陸すると台湾を捨てて去る指導者も多かったというが、それでも台湾民衆は頑強に抵抗し 各地で交戦した。(乙未戦争)台湾北部に上陸した近衛師団が援軍とともに南下し、台南に 至って「全台平定」を宣言するまでに半年を要し、双方に多くの犠牲者がでた。

  その後 50 年間の植民地時代。その展示が終わるところに、大きな白黒のSasie162
写真が 2枚向かい合っている。1枚は船に乗り込む日本人引揚者だ。日本が戦争に敗れ、当時台湾にいたお よそ40 万人の日本人のほとんどは母国へ引き揚げた。
   別の 1 枚は、中国大陸から台湾へ渡ってくる人たちだ。台湾は中華民国政府の統治下に 入り、さらに 1949 年国共内戦に敗れた中華民国政府が台湾に撤退してくる。この間、およそ200 万人の人たちが中国大陸から台湾へ移 り住んだ。この歴史舞台の大転換は、台湾人が思い描いた母国復帰とはかけ離れたものにな った。新たな支配者の下で、厳しい歴史を歩むことを強いられた。市井では「犬去りて、豚来たる(狗去豬來)」などと語られたという。

  日本の植民地時代はもちろん、国民党政府によって戒厳令が敷かれた時代も、台湾の人たちは、自分たちを主人公として歴史を描く ことはできなかった。 「学校で習う歴史は、中国大陸の歴史だった。」多くの台湾人がこう述 懐する。 台湾の歴史を知ろう。民主化の潮流が高ま る中、こうした思いが多くの台湾人の中にふつふつと沸き起こったのは当然だった。さら に、そのエネルギーがさらに民主を突き動 かした。1997 年、台湾の地理・歴史・社会を対象にした中学校の教科書「認識台湾」が、台湾全土で使われるようになった。国立台湾歴史博物館は、こうした時代の文脈の中で、1999 年設立準備が始まり、12 年の期間を経て 2011 年 10 月オープンしたのである。

  実は、台湾には、この台南の台湾歴史博物館以外に、二つの国立の歴史博物館がある。 一つは、台北駅の近くにある国立台湾博物館だ。これは日本植民地時代に建てられた。1908 年総督府が縦貫鉄道開通を記念して臨時展覧会を開催することになったが、故あって 恒久的な博物館になった。建物は、日本人設計による西洋式建築だ。自然史、工芸産業及び 歷史文物の所蔵・陳列を中心に運営された。 ここから南に 1キロほど、もう一つ国立歴史博物館がある。これは、国民党政府が台湾に遷った後、歷史文化教育を発揚するため、1955 年作った博物館である。設立時は總督府殖產局的商品陳列館を利用して始まったが、後に中国伝統様式の展示大楼を建設した。収蔵品も大陸から台湾に持ち込んだ河南博物館所藏文物などから出発した。

  「国立台湾歴史博物館」「 国立台湾博物館」「 国立歴史博物館」。 館名だけ見ると、よほど目を凝らさないと見間違うほどだが、設立時期、趣旨、外観などの中に、それぞれ異なった背景が潜んでいる。いかにも、歴史が交錯する台湾らしいといえるかもしれない。

  世の中で起こる事象は一つだが、歴史は決して一つではない。そんな思いを深くした国立台湾歴史博物館訪問であった。

(記事をPDFファイルでご覧になりたい方は、「160.pdf」をダウンロードしてください。

« 「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 15 | トップページ | 「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 17 »

チーム・近隣アジアを知る」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 16:

« 「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 15 | トップページ | 「人と歴史が交錯する台湾―少しディープな台湾案内」 17 »