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2017年8月

2017年8月 6日 (日)

2017年7月 月例会・公開講演会の報告

Dsc05882 2017年7月24日、くらし学際研究所は神戸市勤労会館で、公開講演会を開いた。演題は「大阪市交通局民営化から考える交通政策」である。講師は、NPO法人KOALA理事の池田昌博さん。最初に、当研究所代表世話人である西澤信善さんから、挨拶と講師の紹介があり、川口稔さんの司会で池田昌博さんの講演が始まった。
 池田さんから送られてきた「講演メモ」を以下に掲載する。

<講演メモ> 池田昌博
1. 大阪市交通局「分割民営化」に関する論点

 大阪市交通局は地下鉄とバス路線網で構成されてきた。もともとは、大阪市内に張り巡らされた路面電車網が、戦後、幹線網が地下鉄、支線網がバス路線に転換されてきたものであり、大都市を支える一つの交通システムであったことを認識すべきである。今回の交通局民営化論議は、地下鉄事業、バス事業を別々に論議し、その前提となる交通政策や都市政策が論議から除外され、交通局の経営形態のみを論議してきたことに最大の問題があると考えている。

 更に、戦前、市電網を整備した第2代大阪市長鶴原定吉は「市街鉄道のような市民生活に必要な交通機関は、利害を標準に査定されるものではなく、私人や営利会社に運営を委ねるべきではない。」と主張していたことも忘れてはならない。

 一方、民鉄を地下鉄線に乗り入れさせない「モンロー主義」が民鉄との運用連携を阻害してきた。ここは東京の地下鉄網とは大きく異なる。民鉄の地下鉄網乗り入れは堺筋線が初めてであった。

 NPO法人KOALAは、このような基本認識のもと、現場実態を確認しながら利用者目線で大阪市交通局のあるべき姿を論議し、大阪市交通局に多くの提言を行なってきた。
  提言書は、https://drive.google.com/file/d/0B6XHc5hFxIkAU002MkhaNVV5cmc/viewをご覧ください。

 私どもの考え方は、事業形態の論議よりも、先ず、この「あるべき姿」や大都市に相応しい交通サービス、交通政策を利用者、事業者、行政が一体となって論議しようというものであった。確かにここ数年の間の交通局の事業改革は成果をあげてきたが、1台2000万円もするが、利用者が極めて少ない赤バス(コミュニティバス)、利用しづらいバスダイヤなど利用者目線から改善提案すべき事項も多くあったと考えている。ただし、赤バスの廃止に当たっての論議の中で「コミュニティバスの問題は区単位で考えよ」と市側が主張したことは、交通が地域間を結ぶネットワークであることや区の財源を考慮すれば無理なものであった。

 今回、大阪市交通局は地下鉄、バス事業が、それぞれ大阪市が100%の株式を保有する株式会社となるが、今後の問題点は以下のとおりである。

(1)交通格差拡大とバス事業の持続可能性
 公共交通の事業撤退は2000年の規制緩和以降、原則的に届出だけで可能である。規制緩和により全国のバス路線は年間2000kmのペースで廃止されてきた。現在、JR東海によるリニア計画が推進される一方、JR北海道の約半分の路線廃止が論議の土俵に乗っている。また、既に全国のバス事業者の7割は赤字である。

 公共交通の社会的な役割を評価せず、事業本体の採算のみで事業の継続性を判断するならば、大阪市内のバス路線は公的支援が切れる10年目以降に多くの路線で存廃論議が発生する。大阪市交通局のバス事業は路線やダイヤの見直しなどにより現在は辛うじて黒字ではあるが、今後の事業収支は極めて厳しい。路線やダイヤの見直しはサービスの劣化にも繋がる。

 この一方、地下鉄事業は既に公企業としての経営効率化が進んでいるため、経常利益が年間300億円以上の高収益事業となっている。民間企業としての決算方式の導入により、更なる好決算も予想される。

 この結果、JR分割の構図(JR東海、JR東日本とJR北海道、JR四国との経営格差)が大阪の地下鉄事業とバス事業で再現されることになる。30年前のJR分割論議では「机上論理で問題は置き去りにされてきた、本州3社以外は黒字とならないと誰もが考えていた」との趣旨で麻生副総理が国会で発言していることも忘れてはならない。

 この観点から考えると、どうしても事業民営化に目線がいきがちな今回の大阪市交通局の民営化論議の本質は地下鉄事業とバス事業の分割にあると考える。

 欧州の民営化(コンセッション方式等)は、ユニバーサルサービスの維持が契約の条件にあり、住民サービス(交通ネットワーク)が削減されることはなかった。株式が公開された場合は、新会社は株主のニーズ(配当・株価)に向くことになり事業者は不採算路線(バス路線)の切捨てが求められる。当面は大阪市が地下鉄会社全株式を、バス会社株の一部を地下鉄会社が保有するが、株式が公開され、外資や投資ファンドに大量保有されることとなれば、大都市機能、市民や来訪者の移動が阻害されることになる。特に、障がい者や高齢者等交通弱者への影響は図りしれない。株式の公開については極めて慎重な対応が求められる。

(2)バス事業と地下鉄事業の一体的ネットワークの維持、経営の推進
 大阪市交通局の公共交通ネットワークが、バス事業と地下鉄事業に経営分割されるが、不十分ながらも一体であった地下鉄とバスのサービスが維持されるかという懸念がある。バスと地下鉄の乗り継ぎ割引サービスの継続、利便性の高い接続ダイヤの実現が可能であるかが課題である。今回の経営スキームではバス会社に地下鉄会社が出資するが、このスキームのなかで経営の効率化と利用者サービスの維持、向上が同時達成できるか、随時、利用者の目線でチェックする必要がある。

(3)「都市交通局」の役割は「行政、市民、事業者による三位一体」による交通まちづくり
 新設される交通政策部門「都市交通局」は現大阪市交通局が担当する地下鉄、バス事業だけでなく、JR、民鉄、民間バス事業者の総合調整を図り、誰もが安心して便利に利用できる都市交通を利用者、事業者と一体となって確立させる責務がある。質の高い交通サービスは大都市政策、「都市格」(都市の品格)向上に必須であり、行政には使命感を持った対応が求められる。(欧州、ソウル市)
 キーワードは「行政、市民、事業者による三位一体」と「近者説遠者来」であると考えている。
 「近者説遠者来」とは住む人(市民)が喜ぶようなまちは来訪者にとっても魅力的でありまちが賑わうという孔子の言葉である。観光戦略へのキーワードでもある。

(4)個別課題
・8号線の延伸は、事業採算性が厳しく中止の方向であるが、地下鉄に代替する新交通がBRTを計画するならば料金やダイヤ編成は地下鉄路線の一部であるべきである。
・交通はネットワークであり、近隣で接続しない千日前線南巽と谷町線平野の結節は必要である。
・中央線延伸は最優先課題ではない。
・「岸里、天下茶屋」は「西梅田、梅田、東梅田」と同様に「同一駅」扱いが必要である。既に東京メトロと都営地下鉄では事業者の壁を越えて、初乗り運賃二重負担の回避を検討開始している。
   
なお、論議のなかで使われる数字については専門家の協力を得てしっかりと検証する必要がある。
・民営化による大阪市の「増収額」は年間100億円ら40億円に減少した。 (地方交付税が減少)
・減価償却方法は一般企業会計と同一であるか。(過大償却の可能性?)
・隠れたコストなないか。

(ここまでは、添付の「ikeda_report.pdf」をダウンロードをご参照ください。)

Dsc05888

 

2.神戸市のLRT計画について

先ず、総論として過度のクルマ社会を是正し、人間中心のまちづくりの装置としてLRTを神戸市が検討に着手したことは歓迎する。クルマ社会は今までは経済成長を支える骨格であったが、その弊害は大きかった。

主な弊害と問題点としては、

・道路から人間が追い出された。(歩道橋)
・交通戦争(死者は減少したが・・・・・)
・道路公害(長期裁判の後、住民側勝訴)
・地域環境問題から地球規模の環境問題に
・エネルギー問題(資源の枯渇)
・中心市街地の衰退とロードサイドビシネスの発展
・超高齢者社会の到来と買い物難民の増大
・直接費用、社会的費用の巨大化
・大規模災害時のリスクマネジメント

 過度なクルマ中心の社会からの転換、エネルギー環境問題、高齢化社会の到来、免許取得率の減少などからLRTは都市交通政策の一つの解決策であると考えている。世界的に見ても都市魅力を評価される都市にはLRTなどの路面交通が都市の装置として敷設されているが、ただ、クルマ社会を批判するだけではLRTなどを活用した公共交通優先のまちづくりは実現しないとも考えている。クルマ利用者に不便を強いるのでなく、誰もが楽しく移動できる仕組みが必要であり、このためにも、LRTが選択肢の一つであると説明していく必要性が求められる。

しかし、これはあくまでも机上の総論であり、それぞれの都市が都市計画、総合的な交通政策の確立を明示し、市民合意を得ていくことが大前提となる。定義はまだ不明確ではあるがBRTという選択肢もある。

 神戸市では本来ならばキャッシュフローベースで赤字である地下鉄湾岸線がLRTに相応しい路線であったと考えている。少し前にJR和田岬線の廃止計画が表面化したが、この路線は、本来は通勤時間帯だけでなく終日、運行されるLRT路線であってもよいと考えていた。中間地点に病院もある。

 LRTは現在、国が多くの補助政策を構築してきているが、各地で、総論賛成であっても、各論では論議が前進していない。路線の選定や道路空間の再配分が前提となるためクルマ社会のあり方についての論議も必須である。

 世界で注目されるのはフランスのストラスブールであるが、女性の社会党市長トロットマンが保守系の反対派と対峙し奮闘した。しかし、保守系の市長となると社会党が路線の延伸に反対する。LRTはその必要性の論議ではなく、政治の道具にされてきている。札幌や宇都宮でも同様の事態を招いていた。

 神戸市のLRT構想は、現段階ではトップダウン方式ではあるが、住民参加を前提に論議していけばよいと考えている。いずれにしても、クルマ派や沿線の説得が大きなハードルであるし、地下鉄やバス事業とどのように整合させていくかが課題となる。

3.地域公共交通に関する税投入について

 少子化や過度のモータリゼーションの進展は、事業経営を悪化させ、地方公共交通の維持を困難なものとしている。一方、地域公共交通は地域社会を支える社会的共通資本(都市の装置)であり、住民のモビリティを確保することが「公」の責任とする考え方が提唱されている。この考え方を法制化したものが、交通政策基本法(2013年制定)である。法制化の目標であった人の移動に関する権利、交通権には触れていないが、先ずは超党派(賛成多数)で成案となったものであり一定の評価をしている。
 わが国の公共交通は、世界でも奇跡的といえる「黒字」事業運営を成立させてきたが、公共交通の運営、維持は「公」の役割であり、単に事業そのものを単体で赤字、黒字で評価する時代は終焉したといえる。効率的な経営維持を前提に、社会的役割を評価したうえで、財政負担を判断した上で、適切な公的資金投入を検討するべきであると考えている。

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