無料ブログはココログ

« 紀要8「日本経済とギャンブル ~カジノで地域振興を図るな~」を発行しました | トップページ | これまで発行した「紀要」のご紹介 »

2015年9月22日 (火)

2015年9月 月例会・公開講演会の報告

Dsc09351a
  2015年9月16日、くらし学際研究所は神戸市勤労会館で、月例の公開講演会を開いた。講師は、尼崎あおぞら法律事務所の吉田哲也弁護士(兵庫県弁護士会副会長)、演題は「多重債務問題の現状と課題」である。吉田さんは、2000年に弁護士登録、尼崎市で開業した当初からサラ金問題に取り組んできたことを話し、「死を招く多重債務」として、冒頭、二つの事件について触れた上で演題に入った。講演の大要は以下のとおりである。

1.死を招く多重債務
2005年9月にヤミ金融業者の厳しい取り立てを苦に、大阪府貝塚市の65歳の男性が自殺した事件がある。この男性は貝塚署に数回相談し、弁護士にも相談したという。貝塚署の副署長は「(男性から)相談を受け、対応している中でこのような結果になり残念である。引き続き捜査を徹底していくつもりだが、今回の対応に問題はなかったと考えている」、とコメントしている。警察にも、弁護士にも相談したというのになぜ助けられなかったのか、残念な事件である。
次に、2006年、くま川ひまわり基金法律事務所(日弁連公設事務所)所長として、熊本県人吉市に赴任(熊本県弁護士会)した当時の事件である。弁護士は二人であったが、仕事もなく、のどかなところであった。そこで、殺人未遂事件が起きた。姉妹が母親の首を絞めて殺そうとした事件である。接見の為、警察に出向き、長女に面会した。初め、笑顔で応対する長女に違和感があった。長女の笑顔は実は、事件の悲惨さを隠すためのものであったことが分かった。母親がパチンコで借金を作り、親せきに借り、サラ金にまで借りまくっていたのである。姉妹も母親と一緒に親戚などに借金に回ったが、もう貸してくれる人もなく、3人は車で死に場所を探し、自分らも後で死ぬつもりで姉妹が母親の首を絞めた、というのである。相談することは考えなかったのかと問うと、誰かに相談することなどは考え付かなかった、との答えであった。
弁護士になりたての頃から、サラ金問題と取り組んできた経験からいうと、「多重債務は人を殺す」、しかし、(弁護士などの力を借りて)解決すれば「人を生かしもする」ということである。

2.多重債務の背景
サラ金問題では、「返せない金を借りるな」、「自己責任」などと言われる。しかし、多重債務問題の背景には、(1)高金利、(2)過剰与信(本人の支払い能力を超える貸し付け)、(3)違法取立て、がある。
(1)高金利
1954年(昭和29年)に作られた利息制限法では、上限金利(民事法定利率)は次のとおりである。
元本が10万円を超えない場合 年利20%
   10万円以上100万円を超えない場合 年利18%
   100万円以上 年利15%
ところが、サラ金業者が使っている、「出資法に定めのある刑罰金利」は、次のようになっている。
以前は、年利は1年借りるとほぼ倍になる109.5%であったものが、1983年(昭和58年)に73%、1986年(昭和61年)に54.75%、1991年(平成3年)に40.004%、2000年(平成12年)に29.2%と引き下げられてきて、やっと2010年(平成22年)に、利息制限法と同一になった。これまでは、サラ金業者は違法だけど、処罰されないということで高金利の無法な利息を得ていたのである。
(2)過剰与信
本人は支払い能力がないのに、①貸せば貸すほどもうかる、②そのために、顧客を大量に誘引して、大金を貸し付ける(大規模広告やテレビ番組の大スポンサーになる―「ニュースステーション」等。ATMによって、借りやすくする-「ららら、むじんくん・・・。」など。高金利だから貸し倒れがあっても回収できるし、借主の大部分は真面目で、約束した以上、返すことになるからである。ATMの登場で、引き出した金を「自分の金」と錯覚して、多重債務に陥っていく者もいる。
(3)違法取立て
時間を問わず(早朝、深夜でも)、人を問わず(親兄弟、親せきまでも)、所かまわず(職場、葬儀場まで押しかけて香典を持って行く)、手段を選ばず(脅迫、生命保険をかけさせ、自殺した人の保険金から回収する)、などの違法取立てが横行した。「目ん玉売れ」「腎臓売れ」など、脅迫する例もあった。
借りた人が悪いとか自己責任論とかあるが、多重債務にはこのような背景もあり、多重債務者が増えると、ヤミ金業者も跋扈することになる。

3.サラ金地獄
昭和40~50年代は「サラ金地獄」と言われるほどの社会問題となった。作家の宮部みゆきさんの小説「火車」で描写されている。多重債務は全国信用情報センター連合会の調べ(2006年)では次のようになっている。
消費者金融利用者 1,600万人
 5社以上  229万人
 4社以上  356万人
 1社のみ  598万人
  延滞者(3か月以上) 268万人
ヤミ金が跋扈し、追い詰められた末の自殺も増えて行った。

4.多重債務被害者運動

Dsc09429a 自己責任論の克服には画期的な動きが始まった。
 1977年5月 サラ金問題研究会(大阪)発足
 1977年10月4日 サラ金被害者の会(大阪)結成
 1978年11月25日 「全国サラ金問題対策協議会」(現クレサラ対協)創立総会
大阪で被害者が「いちょうの会」を結成し、「被害者」として、自己責任論克服の運動を始めたことは画期的。被害者交流集会の開催、各種研究会、弁護団を支援、全国各地に被害者の会が設立され、全都道府県を網羅するくらいになった。

5.法律家との協同
法律家との協同によって、運動は発展した。
(1)受任通知とともに取り立て禁止の仮処分を申し立て。金融庁が取立てするなとガイドラインを示すに至った。
(2)裁判所の破産部との長い闘いによって、破産同時廃止手続きを獲得した。以前は破産を申し立てるために70万円~80万円のお金が必要だった。立ち直りをしようとする人に大金を用立てさせるのはおかしいと闘い、破産管財人をつけずにすむようになった。
(3)サラ金業者の「日栄」などが、「目ん玉売れ、腎臓売れ」などと違法な取り立てを行うことに対しては、告訴・告発、損害賠償請求等法律的な反撃を行った。
(4)刑罰金利(民事的に違法でも刑事的に処罰されない)でも過払い金が発生することを主張して、返還請求を行った。この場合、領収書を借主が保管していなくてもサラ金業者に文書提出を求める命令を粘り強く裁判所に出させ、こつこつと勝訴を重ねて行った。このような闘いによって2003年(平成15年)~2004年(平成16年)に最高裁判所が画期的判決を出した。ここまでに至るには「井戸を掘った人たちがいる」のである。

6.一連の多重債務対策
(1)2006年(平成18年)貸金業法改正
  ①上限金利引き下げ(刑罰金利引き下げ)によって、利息制限法と金利は一致。過払いなくなった。
  ②総量規制
  ③取り立てを規制する、行為規制と一定の資力を必要とする参入規制
 (2)政府の「多重債務問題改善プログラム」(2007年)
  ①相談窓口の拡充、②セーフティネット貸付、③ヤミ金の撲滅(登録制)、④消費者教育。
(3)これらの対策によって多重債務者が減少した
  日本信用情報機構の調べによると、3件以上の借入は2011年(平成23年)が424万人、2014年(平成26年)1月は169万人に減少している。一方、一人あたりの一件当たりの残高は増える傾向にある。

7.残されている課題
(1)保証人
  日栄や商工ファンドなどは、保証人からの回収を初めからめざして貸し付けていた。連帯保証人は借主と同じ責任を有するが、保証人は借主から「頼まれて断れない善い人」たちである。現在検討されている民法の改正案では連帯保証人は「公正証書」でないとダメ、とする考えが示されている。それでは、もはや逃げられなくなる、だから安易な保証はできなくなるから「是とする」意見もあるが、なお検討すべき問題である。
(2)学生ローン
  奨学金の問題は深刻である。取立ても厳しく、育英支援機構は滞納すれば裁判で一括払いを請求している。「滞納を解消しないと猶予しない」などと理不尽である。授業料は高く、貧困問題もある。国際的には奨学金は「渡し切り」であり、日本も奨学金のあり方そのものを考えるべきである。

8.業者などの巻き返しにより、金利緩和論が頭をもたげている

9.多重債務対策は「債務奴隷解放」運動である。
40代のサラリーマンは5~6社から400万円~500万円をサラ金から借金した。
それを、毎月返済してきた。「給料日が怖かった」という。就職してから20年間も返済してきており、過払い状態にありながらも本人は返す必要のない借金に縛られ続けてきた。「債務奴隷」状態であった。多重債務は「命を失う人もいる」。多重債務対策はまさに「債務奴隷解放」運動である。

« 紀要8「日本経済とギャンブル ~カジノで地域振興を図るな~」を発行しました | トップページ | これまで発行した「紀要」のご紹介 »

月例会の報告」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 2015年9月 月例会・公開講演会の報告:

« 紀要8「日本経済とギャンブル ~カジノで地域振興を図るな~」を発行しました | トップページ | これまで発行した「紀要」のご紹介 »