2012年5月27日 (日)

6月月例会・公開講演会開催のお知らせ

 

1205256月27日午後6時から、神戸市勤労会館409号室です。
  今回のテーマは、「福島第一原発事故被害第2回調査報告(仮題)」です。

 当研究所代表世話人の菊本義治氏、世話人の垂水英司氏、落合淳宏氏と、JMIUの藤田和夫氏が、6月4日から7日まで
(1) 郡山市にある双葉町役場支所
(2) 福島大学「うつくしまふくしま未来支援センター」
(3) 福島大学災害復興研究所
(4) NPO「福島大学原発災害支援フォーラム」
(5) 郡山市と福島市にある、原発事故被災者が入居する応急仮設住宅
(6) 福島民主医療連合会

を訪ね、お話しを伺うとともに意見交換します。

 6月月例会は、その報告です。
どなたも参加できます。参加費は500円。ご来場をお待ちしています。

2012年5月19日 (土)

投稿歓迎!

ブログへの投稿を歓迎します。
気軽なエッセイ
書評
研究ノート
論文
など、400字~5,000字程度を目安に、なんでも大歓迎です。

32_2

年誌にも活字になって掲載されます

お気軽に原稿を,添付ファイルで、
kuraken2008@nifty.com

にお送りください。

2012年5月 7日 (月)

2012年5月月例会・公開講演会のお知らせ

12053_2

チラシは、

「12.5月.pdf」をダウンロード

を開いてご覧ください。

2012年5月 2日 (水)

2012年4月月例会・公開講演会の報告

くらし学際研究所は4月25日、神戸市立勤労会館で月例の公開講演会を開いた。講師は神戸市外国語大学名誉教授で当研究所所員の大塚秀之氏で、Img_6899blog_2テーマは「米国における製造業の最近の動向」。大塚氏は、2005年に神戸市外国語大学を退職し、同年から2010年まで北海学園大学人文学部に勤務。最近では、2007年に「格差国家アメリカ」(大月書店)を上梓されています。
 講演の要旨はつぎの通り。

 最近、アメリカでは製造業の回帰(オンショアリング)が話題になっている。一方、失業率は依然8%を越えており、11月の大統領選挙でオバマが再選を果たす上で不安材料になっている。かつて、瞬間風速のような景気悪化の中、よもやのクリントンが当選し、パパ・ブッシュが苦杯をなめた記憶がよみがえる。こうした状況の中で、アメリカの主要企業は、新たな儲けの方法を駆使しつつ時代を乗り越えようとしている。今日はそうしたアメリカにおける製造業の最近の動向について報告をしたい。

1.財の生産からサービスの提供へ
 ニューヨークタイムスの記事に、アメリカにおける雇用数が最大の15社を、1960年と2010年とで比較した図がある。1960年の第1位はGMの595,200人で、以下15位までの企業のうち12社が製造業であった。ところが2010年になると、第1位は世界最大の小売業ウォルマート社の210万人で、以下14の企業のうち製造業は3社に過ぎない。アメリカでは、1960年30%強を占めていた財の生産にかかわる労働者は2010年には14%に減少し、かわってサービスの提供にかかわる労働者の比率が85%に達している。この間大きく産業構造が変化したことがわかる。
 雇用の波及効果が大きいのは製造業である。1000人の雇用がどの程度の追加的な雇用を生み出すかを比較すると、小売りの240に対し鉄鋼生産は11,890である。オバマはスティーブ・ジョブズにあった際、iPhone を中国でなく米国で生産できないかと問うたが、それは無理だとジョブズは答えた。その背景にはアメリカの産業構造の変化があり、中国で行っているような膨大な若い労働力による生産体制が取れないということだ。
 それでは今後アメリカの雇用の変化はどうなるか。アメリカ労働統計局の推計によると2010年から2020年までに、医療や介護、専門ビジネスサービスが大きく伸び、逆に、生産や連邦政府の職員が減ると予想されている。

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2.蘇るアメリカの製造業
 ところが最近アメリカに製造業が戻ってきたという動きが日経新聞などで報じられている。たとえば、これまでの衰退現象を象徴するようなアメリカ中西部の鉄の町・ヤングスタウンがその一例で、かつての鉄は衰退し、刑務所を誘致してまで雇用を増やそうといった状況だった。しかし、最近新型の天然ガス「シェールガス」採掘用のシームレスガスパイプの需要が急増して、フランス鉄鋼大手がヤングスタウンに巨大な工場を建設している。
 また、キャタピラー社が南部ジョージア州のアセンズに新たな建設機械工場の建設を決めた。フォードやGEなども欧州や中国から生産を一部戻す動きが伝えられている。こうした現象には、アメリカの労働コストの低下が背景にあることが重要である。キャタピラー社は一方で、カナダのオンタリオ工場で賃金を半分にすることを提起し、これを拒んだ労組に工場閉鎖を突き付け、労働者側に大幅な賃下げを押し付けた。地元紙(Labornotes誌)によると、カナダの企業を買収し、間もなく工場を閉鎖するといった横暴を阻止するには、外国の投資に関する再検討が必要との意見が高まっているという。

3.アメリカの主要企業のもうけの方法
 こうした状況の中、様々な儲けの手法を試みているアメリカの主要企業を紹介する。

 アップル社は急激に業績を伸ばしている。iPhone の販売価格500ドルのうち生産コストは179ドルである。その内124.46ドルは米、日、独、韓国から供給される部品で、部品組立ての中国人労働者には6ドル50センしか支払われていない。アップル社の製品のほとんどは、中国の深圳に本拠をおく台湾の富士康科技集団(Foxconn)によって生産されている。アップル社の雇用は、米国内4.3万人と海外2万人にすぎず、電子機器の受託製造サービス(EMS)では世界最大手の台湾鴻海精密工業の子会社Foxconn社が、深圳その他の巨大な工場群で、100万人に達する労働者を使って、アップル社その他の製品を生産している。自殺者が出るほどの劣悪な労働条件や環境が問題視されており、製品組立てのほとんどを委託しているアップル社も社会的批判をまぬかれない。

 GMのその後について。2009年6月に破産処理し、再建の道に踏み出したが、再建は目を見張るようなスピードで進んだ。2010年11月には早くも再上場を果たし、販売高はトヨタを抜いて世界首位の座を奪還し、名目では過去最高益を出すほどに復活した。これはなぜなのか。それは大規模なリストラによる人件費の大幅な削減である。その中心にあるのは、新規採用労働者の賃金を従来の労働者の半分くらいにする二重賃金制の導入で、長年守ってきた同一労働同一賃金の原則を放棄した同一労働二層化である。

 ボーイングは、南部のサウスカロライナに新しい工場を建設している。2008年にワシントン州にあるボーイングの工場で大きな労働争議が発生した。これは部品納入業者に取り付けなどの作業もアウトソーシングするリストラ提案に対し、長いストライキに突入したものだ。航空機の注文が殺到しているのに生産が間にあわない状況が出ていた。労働組合との交渉を嫌うボーイング社は、ユニオンショップを禁じている保守的な南部の州に工場を移転しようとしているのだ。この決定に対して労組は全国労働関係委員会に訴えたが、最終的にはワシントン工場にも雇用を増やすことで新工場建設に合意した。こうしたアメリカ製造業の南部進出の動きは、ボーイング社だけでなく一つの流れになっている。

4.おわりに
 アメリカの労働原則からいえば同一労働同一賃金は基本中の基本である。二重賃金制、場合によっては三重賃金制などが採用されていく。工場を移転するという会社の脅しにやむなく妥協を迫られる。福利厚生の仕組みもズタズタに切り裂かれようとしている。これまで労働側が積み上げてきた体制が崩壊する危機であるといえる。
 この状況を打開するためには、企業ごとの個別交渉で対応することは難しい。全米自動車労組(UAW) が造り上げてきた労使関係、二大政党制などの仕組みもほころびが出ている。従来のシステムの打破が必要であろう。これから増える医療・介護といった雇用、その劣悪な労働条件をどうするか。こうした問題も含め、新しい地平を展望していく時期ではないかと思う。

2012年4月18日 (水)

迷い、ためらいながら、自分の立ち位置を探り求める監督たち

        -震災ドキュメンタリー映画4作品を見て-

                        くらし学際研究所 垂水英司

東日本大震災から既に1年が過ぎ,ぼつぼつとドキュメンタリー映画が劇場上映されるようになってきた。最近関西で公開された「311」、「大津波のあとに」、「槌音」、「friend after 3.11」の4本を見た。あの大きな災害の現実にたじろぎながら、ともかくも現場に立って惨状をフィルムに切り取り、迷い、ためらいながら人々にインタビューを試みる。被災の情況を撮影しながら、自分の立ち位置を探り求めるような作品、全体としてそのような印象を受けた。

「大津波のあとに」は1970年鹿児島生まれ、アニメ制作会社やフリーの助監督として活動していた森元修一監督の作品。東京の自宅でテレビにくぎ付けになって悶々としていたが、震災から10日後、ただ一人被災地へ向かPhotoう。仙台、東松島、石巻を10日間ほど撮影した記録だ。車の進行に合わせてゆっくり、そして静かに展開する被災地の風景が延々と続く。言ってはいけないかもしれないが、私は「美しい映像だなー」と思う。森元は、破壊されてしまったこの場所には人がいたのだ、そのことを忘れてはいけない、とくりかえし自分に言い聞かせる。そうしないとそれを撮影するという行為を正当化できなかったという。そしてまた、撮影するべき対象はやはり人ではないのか、と考える森元も、「すさまじいまでに日常が破壊された風景のなかにいる地元の方にカメラを向けることはその日もできませんでした。今日こそは試みなければ・・・」という日々が続いたようだ。
最初に成り行きのような形でカメラを向けた男性の口から、生後3カ月の子供が流されたことがさらりと語られる。嘆き悲しんだ口調でなかったことが却って森元にはショックだったという。石巻では湊小学校の仮設の校舎で行われた卒業式の様子をカメラに収める。そして多くの学童が犠牲になった大川小学校でも人々にカメラを向けていく。しかし、人に向けた目線は、問いただしていくのではなく、聞き取りながらカメラに収めていくといった形で終わる。  写真は「大津波のあとに」ポスター(一部)

「槌音」は 1986年大槌町出身で、大学在籍時から自主映画制作をしていた大久保愉伊の23分の作品。「大津波のあとに」と併映されてきた。震災から2 週間後の3 月25日東京から大槌に帰省し、生まれ育った町と全く違う情況を見て驚愕する。その時カメラを持ち込むことができなかった彼は、スマートフォンで風景を記録し続けたという。彼もやはり、町民や家族に対しカメラを向けることはできず、ひたすら町を歩き風景だけを記録した。
Photo_2帰京してから、東京に持ち出していた震災前の大槌の映像と震災後の大槌の映像とを編集し、何か作ろうと思い立つ。「それは何のためでもなく、ただただ自分が現実と過去を受け入れる事のできない夢心地な気持ちをなんとかしようとしていたから」という。
ほとんど何もかも流された街と生活の営みのあったかっての大槌が交互に映しだされる。破壊された自宅の姿とホームビデオで撮っていた映像が入れ替わる。そして、カモメか重機の音しか聞こえない今の大槌、電車の音や祭りや日々の生活の音が響いていたかつての大槌。二つの音の対比も交錯する。それが「槌音」というタイトルになったようだ。 写真は「震災前の大槌の祭り」

「311」は、映画監督森達也、映像ジャーナリストの綿井健陽、映画監督の松林要樹、映画プロデューサーの安岡卓治の共同監督作品。いずれも既に実績をもった映画人の4人は、大震災発生から2週間後、震災をその目で確認するため、一台の車を運転して被災地へと向かう。映画を作るということでなく、現場を確認することが共通の目的だった。撮影するうちに自分たち自身も、舞台裏の姿や声も含めて被写体になっていく。
ガイガーカウンターの反応におびえながら東京電力福島第一原子力発電所へ近づき、津波に打ちのめされた被災地を走り、そのすさまじさに息をのむ。石巻市立大川小学校ではわが子の遺体を探し続ける母親の姿を見つける。その横へ行ってためらいがちに「見つかって欲しくない気持ちもありませんか…」と言葉少なく質問する森監督が映し出される。「もうそんな時期は終わったよね。」とうなずき合うお母さんたちに、次の質問が途切れる。さらに、見つかった遺体に近づいて撮影しようとし、遺族の一人が木片を投げつける場面もある。当事者と撮影者の間にある深い感情の隔たりを感じる。Photo_3
「311」の宣伝チラシには、「誰も、観たくなかったはずのドキュメンタリー」「遺族を目の前にしながらビデオカメラを廻し続ける彼らにも厳しい批判が」「映画祭で上映されるやいなや、怒号と賞賛が乱れ飛び」「劇場公開も危ぶまれた本作」などと、刺激的なコピーが並んでいる。私のみた限りでは、「怒号とか賞賛とか」そのように大仰な評価より、自分たちを被写体に含めて撮影し、不格好な姿を提示したところにこの映画の「面白さ」を感じる。そして、そうさせた今回の震災の大きさを改めて実感する思いだ。 写真は、「311」ポスターの一部

「friend after 3.11」は、映画作家としてメジャーな岩井俊二監督による作品。「3.11の後、気がつけば、友達が増えていた」という監督が、東日本大震災後に再会した友人や、ツイッター等を通じて出会った人々と語り、映しとっていくドキュメンタリーである。脱原発という明確なメッセージを軸にした構成になっている。震災後2、3週間の頃に、明確な意図を持たずにカメラを回した、先の3作とは大いに趣を異にする。ほとんど言葉で語らなかった、あるいは語れなかった3作に対し、ここでは多くの人達が登場し、多くの言葉を語る。
京都大学原子炉実験所助教の小出裕章、内閣府原子力委員会専門委員などを歴任している中部大学の武田邦彦、元東芝・原子炉格納容器設計師の後藤政志、反原発の立場で活動を続けてきた文筆家の田中優、経済金融界では異例とも言える脱原発宣言を掲げた城南信用金庫の理事長・吉原毅、環境エネルギー政策研究所(ISEP)の所長・飯田哲也、福島の子どもたちを守るために粉骨砕身する俳優の山本太郎など、そうそうたるメンバーが登場する。既に、テレビなどでおなじみの顔ぶれが多い。監督がインタビューしながら言葉を引き出していく。それぞれの言葉の中に、触発されることも多い。だけど、荒削りで、何を言おうとしているのか明確でなかった3作の「面白さ」を感じることはできなかった。
Photo_4「反原発のジャンヌ・ダルク」として注目の14歳のアイドル藤波心(私は知りませんでした)が登場し、重要な役回りをしている。監督と二人で会話をしながら仙台荒浜の被災地を歩きまわるシーンがある。途切れがちで、とりとめなく続く会話。映画の最後は、反原発ソングを歌うバンド『Frying Dutchman』(これも知らなかった)の街頭ライブが長々と映しだされる。映画全体としては、まとまりのつかない戸惑い感が残った。ああ、やっぱり岩井監督もこの大きな震災に自分の立ち位置を探しているんだなと、私は勝手に断定したのである。 写真左・藤波心と右・岩井俊二
      (本稿の記述では、それぞれの公式サイトを参照し、写真を拝借しました。)

 

2012年4月15日 (日)

2012年3月月例会・公開講演会の報告

くらし学際研究所は3月31日、神戸市立勤労会館で総会と月例の公開講演会を開いた。講師は立命館大学経済学部教授の中本悟氏で、

Img_6896テーマは「TPPと日米経済関係」。中本氏は、大阪市立大学大学院教授を務められていましたが、ちょうど講演当日、立命館大学に着任され、多忙を縫ってのご講演でした。
 以下の講演要旨は、中本氏の報告PPTを元に、伊藤国彦氏(兵庫県立大学経済学部教授)にお願いして、文章化していただいたものです。

1.TPP(Trans-Pacific Partnership Agreement)とは何か?
TPPの原型は、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポール間で2006年5月に発効した“Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement(通称「P4」)”である。2010年3月、上記4カ国にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナムを加えた8カ国でP4を発展させた“Trans‐Pacific Partnership Agreement(環太平洋連携協定、通称「TPP」)”の交渉を開始し、さらに同年10月にマレーシアも参加した。
そもそもTPPは、特定国間で締結する“Free Trade Agreement(FTA:自由貿易協定)”である。では、多国間貿易自由化協定を原則とするGATT(1947年)およびWTO協定(1994年)の枠組みの中で、なぜFTAが認められるのか。それは、多国間協定よりも広く、そして早く貿易自由化を進めるからである。
FTAでは、「実質上すべての貿易(substantially all the trade)」の関税撤廃が必要であるとされるが、WTO協定上の基準はなく、少なくとも貿易の9割(貿易量又は品目数)を10年以内に関税撤廃することが必要との解釈が一般的である。しかしながら、二国間協定であるFTAでは、特定当該国間で交渉によって貿易自由化の条件を決めることができる。
それに対して、TPPは以下の点で通常のFTAとは異なる。まず、特段の定めがない限り、協定発効日に各締約国は、相手国に対してすべての原産品の関税を撤廃することを義務づけられる。TPPが「例外なき」関税撤廃と言われる所以である。次に、関税以外の広範な経済取引や諸制度についての自由化と規制緩和も求められる。これがFTAと大きく異なる点で、いくつか列挙すると、市場アクセス/原産地規則/貿易円滑化/衛生植物検疫措置/貿易の技術的障壁/貿易保護/政府調達/知的財産権/競争政策/サービス(電気通信)/サービス(一時入国)/サービス(金融)/サービス(e-commerce)/投資/環境/労働制度的事項/紛争解決など実に幅広い。この点を理解しておくことは重要である。
もう一つTPP を理解する上で重要な点が、参加12カ国の経済規模や貿易依存度に関してである。日本とアメリカのGDP合計が12カ国合計の82%を占め、「TPP はまさに日米FTAだ!」と揶揄されるのである。その他に以下の4つを指摘することができる。第1に、TPP参加表明国のうち、カナダとメキシコはNAFTA(1994年)加盟国であり、対米貿易依存と自由化はすでにきわめて高い。第2に、他のTPP参加国は、経済的には小国、かつ外需依存が高いので、貿易によって立国する他はない。第3に、アメリカのTPP戦略は日本抜きでは成立しない。 しかし、日本がTPPに参加しないと「世界の孤児」になるわけではない。現実に、EUも中国も韓国も参加していない。第4に、日本にとってアジア域内貿易が最大の貿易である。「アジアの成長を取り込む」と言っても、中国、ASEAN、韓国が参加しないTPPでは「アジアの成長を取り込む」ことにはならない。したがって、日本の経済外交にとっては、アメリカの貿易戦略に乗るのではなく、ASEAN+3やAPEC、WTOを基本路線にすべきである。 

2.アメリカの通商戦略とTPP
アメリカは、もともとは貿易の依存度が低い大陸国家であった。しかし、1970年代以降の貿易赤字の拡大とともに、貿易政策が重要となった。1980年代には、「自由貿易とは公正貿易(fair trade)」の流れが強まる。例えば、日米貿易摩擦におけるアメリカの主張は、日本が不公正な貿易を行っているというものであった。日本に限らず、アメリカは1980年代初期から、世界的規模で多様なアプローチをとって貿易自由化を求めるようになる。対象とする取引範囲も拡大し、農産物、サービス、知的財産権取引などを貿易自由化に取り込むようになった。Img_68911993年は、アメリカの通商戦略にとってtriple playの年と言える。triple play とは、APEC初の非公式首脳会議の開催、NAFTAの議会批准、ウルグアイ・ラウンド交渉の実質妥結である。それらの成果は、1995年のWTO成立へつながって行くのである。しかし、その後2001年から始まったドーハ開発ラウンドの中止(工業品分野でアメリカとインド、ブラジルとの対立激化)、2004年にはNAFTAの南方拡大が失敗する。
そこで、2006年にブッシュ大統領は、アジア太平洋自由貿易圏構想(FTAAP)を提起し、新たな通商戦略を展開した。それに対して、ASEANは、2007年11月の首脳会議で、ASEAN経済共同体ブルー・プリントを採択し、2015年までに域内において全品目の関税を撤廃することに合意した。中国は、日中韓FTAを提起している。こうした中、2010年10月1日に菅元総理が所信表明で、突如TPP交渉参加検討を表明したのである。
現在のオバマ政権での通商政策はどのようなものであろうか。オバマ大統領は、「輸出倍増計画」としてTPPを位置づけている。その計画は、2010年1月一般教書演説で表明され、2009年~2014年までの5年間でアメリカの財・サービス貿易を倍増するというものである。その背景には、アメリカの高い失業率と中間層の解体・格差の拡大に対する米国民の強い不満がある。オバマ大統領は、雇用創出と格差是正を“made in America”の増強と輸出増加によって実現しようとしているのである。
また、アメリカの推進するTPPは、アジア太平洋において政治的・軍事的存在感を高める中国を抑制しようとする戦略でもある。

3.アメリカ経済と日米貿易の現状
若干の改善が見え始めたとは言え、アメリカ経済は厳しい状況にある。例えば、雇用状況は、今だ8%を超える高い失業率である。さらに、長期失業者(6ヶ月以上の失業者)が急増しており、失業が長期化している。所得階層別の所得の伸び率や中間層所得の占める割合のデータからは、高所得者がますます多くの所得を獲得して経済格差が拡大し、加えて中間層が崩壊してきているという状況が観察される。これらは、1980年代のレーガン以降の新自由主義に基づく自由化・規制緩和が原因である。
次に、日本の対米主要輸出品と輸入品、農業分野の日米格差、日本の農業出荷額の低下などのデータから日米貿易の現状や特徴が明らかとなる。TPPとの関連で、日米貿易の特徴的な性格を確認しておこう。第1に、アメリカは農業・サービス貿易大国であることが解る。米製造業企業もonly youサービス(ソフトウエア、ITサービス、メンテナンス)とonly one戦略(知的財産)を重視している。第2に、日本のコメは778%の関税率であるが、TPPでは確実に大打撃を受ける。日本の農業者人口は260万人で総人口の2.2%に過ぎないが、環境保全や食糧安保など農業を1つの公益事業として位置づけることが不可欠である。つまり、農民の問題としてではなく、日本全体の問題として捕らえるべきである。第3に、工業は今やglobal 生産企業によって担われている。global 企業は、しばしば“Run away corporation(逃亡企業)”化する。Adam Smithが生きた18世紀の時代のように、貿易自由化=諸国民の富の増加の時代ではない。第4に、サービス企業のほとんどは、現地拠点を設置して、サービス輸出をする。すなわち、投資の自由化と保護が貿易自由化の前提となったグローバル化時代と言える。それゆえ、ISDS(投資家対国家の紛争解決) といった内容までがTPPに含まれることになるのである。

4.TPPの評価
TPPの性格を知り、評価を下すために、まずアメリカが日本に迫る非関税障壁の一例を見てみよう。農業分野では、「牛肉輸入の全月齢を解禁せよ」、「農薬残留基準値を緩和せよ」、「遺伝子組み換えやポスト・ハーベストの表示義務を廃止せよ」、「食品添加物の認可をもっと増やせ」などを主張している。この一例に、TPPの性格を垣間見ることができる。より包括的にTPPの主な性格を列挙すれば、次のようになる。

1)グローバル企業による「水平な競技場」(plain field)を創出すること。つまり、貿易だけでなく、企業が自由に活動できる場をつくると言うことが目的なのである。これは、1997年に葬り去ったOECD主導のMAI(多国間投資協定)の大規模な再現に他ならない。
2)農産物、サービス、その他あらゆる国際取引を自由化すること。それを支える新自由主義。
3)アメリカのヘゲモニーによるアメリカのためのアジア太平洋圏戦略を実現すること。 

以上を踏まえて、日本はTPPに参加する道しかないのであろうか。
私見では、TPPを超えて今後の日本の進むべき針路は、次の2点にあると考える。
1.地域経済の内発的な発展構想を支える地域民主主義とglobal企業のrun away corp.の社会的責任の追求。
2.脱工業化時代の先進国による成長戦略としての創造産業、創造経済、創造都市の構築。
1と2は密接に関連しているが、再び製造業の復活を目指しての再生は不可能であって、成長率の低い脱工業化社会に入った日本に必要とされる付加価値創出・雇用創出のあり方を追求すべきである。例えば、「環境に優しい」産業、新たなサービス業の育成といった政策が候補となろう。また、TPPに関して、投資を含めた貿易自由化も重大な問題を孕んでいるが、global企業に行動の完全な自由を与えるのか、それとも公益を考慮した社会的責任をまっとうする「秩序ある」行動を求めるのか。ここが、根本的な争点となろう。
 

2012年3月29日 (木)

4月月例会・公開講演会のご案内

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2012年3月27日 (火)

年誌「現在の不安 それを超えて 2 東日本大震災特集」発行のお知らせ

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 2012年3月31日に、くらし学際研究所の年誌の第1号として、「現在の不安 それを超えて 2 東日本大震災特集」が発行されます。ブログの記事をまとめた内容で、月例会の講演要旨(文責・当研究所世話人会)と関連するエッセイが掲載されています。
 A4版全68ページで、定価は500円(送料別)です。
 購読ご希望の方は、このブログのコメント欄からお申し込みいただくか、当研究所員にご連絡ください。

2012年3月 4日 (日)

2012年2月月例会・公開講演会の報告

くらし学際研究所は2月29日、神戸市立勤労会館で月例の公開講演会を開いた。講師は神戸合同法律事務所所属の増田祐一弁護士で、テーマは「苦しい生活を余儀なくされている人々に目を向けてみる」。増田弁護士は小・中・高校は、地元神戸・灘区出身で、司法試験を受ける準備をしている時代から「ホームレス」に関心があったという。現在、労働事件、消費者問題、交通事故、福祉関係事件、刑事事件などを取り扱いつつ、兵庫県弁護士会人権擁護委員会ホームレス部会のメンバーとして、ホームレスの人たちの法律相談の活動をしている。講演の要旨はつぎの通り。

(1)神戸におけるホームレス状態の人々の現状
 私たちがグループで「夜回り」してわかったのは、中央区三宮、元町そして湊川あたりまで含めると「今夜も家のないところで寝る人」は100人前後。灘区、東灘区には20-30人を数える。
(2)ホームレス状態に至る理由
 親の貧困から教育の不足--。60歳代の人で、字が読めない、書けない人が結構いる。中学を中退したケースも。障害を持った人も多い。そして、少年事件、刑事事件を起こし、就職できない。若い頃は建設現場で働けたが、50歳以上で体力が低下すると仕事がなくなり、ホームレスに。また、会社の倒産、離婚が原因に挙げられる場合も多い。「借金取り」がこわくて逃げている人も。
ネットカフェに集まる人たちが増えていいるが、かれらも一種のホームレスといえるのではないか。
(3)ホームレス状態から抜け出せない理由
 彼らが仕事をしていないわけではない。「空き缶集め」に懸命だ。
 生活保護を申し込むが、「住居がない」と断られる。私たち弁護士は生活保護申請の手伝い、借金の整理、戸籍をもとにもどすなど、権利関係の整理などをしている。
 しかし、経済的貧困より「孤独」の方がつらいということもある。
 いま、貧困ビジネスのひとつとして、「囲い屋」の問題がある。ホームレスのひとたちに生活保護を受けさせ、「寮」のようなところへ入れる。食費、家賃として多額の金を取り、本人には2-3万円渡すだけ。暴力団がらみの場合が目立つ。
(4)貧困の背景には、経済格差の拡大、セーフティーネットの不十分さがある

<関連法律の条文>
日本国憲法25条
 1項 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
 2項 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
生活保護法
(この法律の目的)
  第1条 この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、
その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
(無差別平等)
  第2条 すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別に受けることができる。
(保護の補足性)
  第4条 保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。

  特に第4条にある「資産」「能力」を根拠に、生活保護を求める市民に、行政は「まだ働けるでしょう」「家を売って生活しなさい」「車を持つなどぜいたくだ」など、申請に拒否的対応をすることがある。
  この第4条1項にある「資産」「能力」を行政側が頻繁に使うのは、憲法25条との関連で問題ではないか。この条文 は違憲ではないのか--と、あとの質問の中で提起され、活発な議論になった。(文責事務局)

  なお、講演終了後、講師の増田氏からつぎの補足説明が送られてきました。ご後援の中心的なテーマに関わることとも居ますので、そのまま掲載します。

 「どうも僕の伝えたい意図が伝わらなかったな、あるいは、皆さんがどう理解されたのかぼくにはよくわからなかった、と思う点がありますので、補足説明を。
 発展途上国や、縄文時代の例示を挙げましたが、あれによって考えてもらいたいと思っていたのは、時代、場所、文化等によって、貧困の概念は相対的であるということです。貧困の問題を考える際には、その点を大前提として頭に置いておかなければならないと思います。でないと、アフリカにはもっと貧困な人がいる、戦時中はもっとしんどかった、だから、現代の日本における貧困などさして問題ではないのだ、という考えに陥りますし、そういう反論をしてくる人は多いです。
 発展途上国や、縄文時代の状態については、問題だとは考えないのに、現在の日本における貧困状態を問題だと考える・・・その区別がなぜ起こるのか、しっかりと理由付けから考えてもらいたかったというところです。
 単に、現代の日本と、発展途上国や縄文時代を、比較することがオカシイというだけでは説得的ではありませんので。」

2012年2月22日 (水)

3月総会記念講演会のご案内(2報)

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